言葉も大事だけど・・・ 中竹 竜二(著)『部下を育てる リーダーのレトリック』

今日ご紹介するのは、こちら

ラグビーU20日本代表監督で、早稲田大学ラグビー部前監督である、中竹 竜二さんの著書『部下を育てるリーダーのレトリック』です。





ところで、みなさんは「レトリック」という言葉を知っていますか?? 知っているという人も多いと思いますが、私は知りませんでした。
だから、最初にこの本のタイトルを見たとき「レトリックってなに??」と思ってしまいました(;^_^A



では、私と同じようにご存じない方のために本書から引用しますね。

「レトリック(rhetoric)とは、古代ギリシャに始まった効果的な言語表現の技術であり、日本では「修辞学」と呼ばれる。歴史を振り返れば、皇帝、武将などが必ず学ぶ教養科目の1つだった。側近の部下はもちろん、時に民や民衆や一兵卒にもわかりやすく物事を伝え、納得させ、人を動かすことが重要だった彼らにとって、必須のスキルだったのである。(p4)


わかりましたか??私はこれでもよくわからなかったので、もうちょっと調べてみたら、コトバンクにこんな説明がありました。

レトリック



世界大百科事典 第2版の解説


レトリック【rhetoric】


本来の意味でのレトリックとは,古代ギリシアに始まり,19世紀後半まで2000年以上,絶えることなくヨーロッパに継承されてきた〈効果的な言語表現の技術〉であった。もともとは文法学,論理学(弁証術)などと並ぶ重要な基礎教養のひとつの科目であったが,その伝統的な技術学としての形態が消滅した現代では,この用語は,言語表現の(しばしば悪い意味での)技巧や効果をあいまいにする非専門的なことばとしても用いられることが多い(たとえば,〈それは単なるレトリックにすぎない……〉などということばづかいとして)。



百科事典マイペディアの解説


レトリック


本来は古代のギリシア語レトリケに由来し,弁論の技術とその体系をさした。1.発想(主題の問題点を探し出すこと),2.配置(1.をどのように順序立てるか),3.修辞(1.2.をいかに効果的に表現するか),4.記憶(口頭弁論のための暗記),5.発表(発声,身振りなどの技術)の部門に分かれて体系化された。
※本文は出典元の用語解説の一部を掲載しています。

もう少しわかりすくなりましたか??



では、いつものように、この『部下を育てるリーダーのレトリック』の中から私が付箋を貼った箇所からいくつか紹介しますね。





まず、この本の構成ですが、プロローグに

第1章は、「部下に気づきを与える」言葉のかけ方である。部下が行き詰っているとき、悩んでいるときに、彼らが視点を変え、突破口を見出すためのレトリックに言及した。

続く第2章は、「部下を成長に導く」言葉を集めた。成長が止まったかに見える部下、間違った方向に進もうとしている部下を、自分らしく成長されるための言葉のかけ方を紹介した。

そして最後の第3章は「チームで成果を上げる」ためのレトリックである。コミュニケーションを機能させたり、一人ひとりがメンバーシップを発揮して高い成果を上げるためにリーダーは何を言うべきか。私のチームマネジメントの経験を踏まえて書いた。(p9)

とあります。この直後に私が付箋を貼った箇所があるのですが、

 部下にかけるべき言葉は、常にケースバイケースである。繰り返しになるが、レトリックの目的とは、それによって人を納得させ、動かすことである。だから上司がすべきことは、単に言葉を飾りたてることや巧みに操ることではない。
 自分は部下に何を伝えたいのか。部下をどのように成長させたいのか。メッセージを整理することが先決である。そのうえで、どんな言葉で言われるとより納得できるのか、相手の立場で考え抜く。そうやって初めて、部下に伝いたいメッセージが「適切な言葉」になる。
 単純なことだが、これが部下を成長させ、高い成果を上げる組織を作るレトリックの基本だ。

本書を読み終えた後で、この文書を読むと、私が思う「本書で著者が伝えたかったこと」が、この文章に集約されていると思います。


この記事のタイトルに「言葉も大事だけど・・・」と書きましたが、これはそういう意味。言葉も大事だけど「自分は部下に何を伝えたいのか。部下をどのように成長させたいのか。メッセージを整理することが先決」ということ。


では、どうすれば「適切な言葉」を言えるのか??
これも、当たり前のことですが、「相手のことをよく見て,知って」ということですね。
それも、他人から聞いたことで判断するのではなく、自分自身で見ることが大切。


今、私も若手3人の面倒を見ていますが、そこまで彼らのことを理解しきれていないと思います。
時に彼らと話し合うなどして、もっと彼らを知る努力をしなければ!と感じました。




マニュアルは裏を読め


 多くの場合、マニュアルを作るのはその組織のリーダーだ。リーダーが最良のノウハウを、全員が効率よく実践できるように作成する。リーダーはその目的のために「What」「How」だけ表出させる。
 「裏を読め」とはすなわち、ここで抜け落ちてしまった「Whyを考えろ」ということだ。裏を読むことが大切な理由は2つある。(p47)

この文章に続いて2つの理由が書かれていますが、それは本書を読んでくださいね〜(イジワル??)(;^_^A


この「裏を読め」「Whyを考えろ」というのは、仕事でも心掛けなければいけないことだと思います。
マニュアルには「こうしなさい」ということが書いてあるけど、常にそれが正しいとは限らないし、それに、すべてのケースに対応したマニュアルなんて作れませんからね。
マニュアルは起こりうることの70〜80%を満たせれば十分だと思います。
じゃあ、マニュアルに記載されていない残りの20〜30%には、どうやって対処するのか??
それが「Whyを考えろ」ということだと思うんです。


「なぜ」「なんのために」それをするのか?しなければいけないのか?
それがわかってれば、マニュアルに載っていないことであっても対処できると思うんですよね。



私はよく、後輩が作ってきた資料をチェックしながら「どうしてこういう計画をしたの?」と問います。


でも、返ってくる答えは「参考にした資料がこうなってたので...」と自分で考えていない答えが返ってくることの方が多いですね...
これだと、基本問題は解けても応用問題は解けるようにならない。
自戒も込めて「なんのため」は常に意識するようにしたいと思います。




失敗の中の「小さな成功」を大切にしよう


 失敗したからといって、すべてをゼロにリセットする必要はない。変えるべきこと。変えなくていこと。失敗の原因になったこと。次につなげるべきこと。それを明確にしたほうがいいのである。(p60)

「失敗は成功の母」とも言いますからね。
それに、前回記事で紹介した『「仕事を任される人」になる5つのルール』にも『失敗は単に知らなかっただけ』という言葉がありました。
若いうちは、初めての経験は失敗しても許されることも多いし、それを糧にして成長していく。そう思います^^


そのためにも、なぜ失敗したのか、原因を追究するだけではなく、じゃあ、どうすればよかったのか、今後はどうするべきなのか、そんな将来につながる反省,振り返りが必要なのですね。




「頑張った」は言い訳にならない


 その行動をきちんとこなしたかどうか。目標ときちんと向き合っているはどうか。プロセス評価では、そこに注目しなければならない。毎晩遅くまで残業している、1つの仕事に時間をかけているといった点を高く評価するのは全く無意味だ。
 結果に責任を持つことは、性格でも何でもない。1つの「スキル」だ。結果を出すことに本気でコミットできる部下を育てたいのであれば、「”頑張った”は言い訳にならない」という言葉をかけて甘えを排除し、結果が出る頑張り方をともに考えることが重要である。(p113)

非常に厳しい言葉ですが、でも、これも事実です。
成果も出さないのに毎晩ダラダラと1つの仕事をして残業ばかりしている。
そんな人を評価するようでは、上司失格ですよね??


私の職場ではプロジェクトごとに収支計算しているので、そんなやり方をしていたら、評価されるどころか減点されてしまいます(;^_^A



それから、この文章の最後に『ともに考える』とあります。
そう、部下に自分で考えさせるだけではなく、上司もいっしょになって考えるということ。
そんな上司がいたらステキですよね。
きっと、頼りにされる上司になれると思います。


私は評価者ではないけれど、頼りにされる先輩にはなりたいですね。




君たちが覚えていないのは私の責任だ


 覚えていないことを責めたところで、意味はない。覚えられないのは、浸透させる工夫が足りないからだ。つまり、浸透させる側の上司の責任ということになる。(P169)

この本を読んでいて、中竹さんは学生や部下に厳しい、という印象が先にあったのですが、この文章を読むと自分にもかなり厳しいですよね。
「相手が覚えていないのは、覚えさせられなかった自分の責任」
じゃあ、どうすればいいのか??どうすれば浸透させられるのか??


そんなことを考えていたから、次に紹介するような会議の方法も取り入れられたのでしょうね。


本番はミーティングから始まっている


 あるとき、選手たちが「グループを少人数に分けてミーティングしたい」と言ってきた。「なるほど」と思った。
 皆さんも経験があるはずだ。3,4人の会議であれば、発言量に違いはあっても全員が意見を言う。一方、参加者の数が多くなればなるほど、発言する人は決まってくる。20人の会議ともなれば、中心になって意見を言う人は3〜5人だろう。


<中略>


 ミーティングの役割は、「物事を決める」ことだけではない。参加者それぞれが「自分のこと」として考えることによって、決定事項の実行までイメージしながらフルコミットすることが重要だ。(p182-183)

会議のための会議と感じることは、私の職場でも多いです。
2時間も会議して、結局、結論はなに??誰がやるの??と思うような会議(;^_^A


会議やミーティングの目的は、だれがやるのかを含めて「物事を決める」ことだと思います。
私が会議を主催することは少ないのですが、参加者としても、「いつまでに」「だれが」「なにをやるのか」そんな結論が導けるような参加者になりたいと思います。




「マスト」より「ネバー」を大切に


「すべきこと」を定義しただけでは、それ以外のすべては「しても、しなくてもいいこと」というグレーゾーンになってしまう。「力任せに当たる」が次善のオプションにならないようにネバーを明確にしておく、というわけだ。実際、選手たちには「マストよりネバーを明確にしよう」と常に言い続けた。(p191)

「ToDoリストといっしょにNot ToDoリスト」も作れ、とはよく言われますが、私はその理由がよくわかっていませんでした(;^_^A
でも、本文を読んで「なるほど!そういうことか!」と気づかせてもらいました^^


「これだけは絶対にやらない」私もそんな「Not ToDoリスト」を作りたいと思います。



本書ではラグビーU20代表チーム事例を紹介しながら説明されているのですが、私が抜き出したこの文章だけでは『「マスト」より「ネバー」を大切に』する理由があまり伝わらないですよね?(;^_^A
気になる方は、ぜひ本書で内容を確認してください!
その方がきっと腹落ちします。




おわりに


 私の考えるスキル習得は「知識」「意識」「無意識」の3段階からなっている。まずはそのスキルをきちんと理解できているか、次に意識した状態で実践できるか、そして無意識の状態でも再現できるか、だ。もちろん目指すは無意識の段階。でなければ、試合では使えない。肝心なのは、選手が今のどの段階にいるのかの見極めだ。そのためにコーチはミーティングで「知識」を与え、練習で「意識」させ、実践で「無意識」でもできるように鍛える。
 人間の意識には限界がある。最初は意識していたことも、新しい意識が加わると徐々に飛んでしまう。なぜ、いつも飛んでしまうのか、本人はなかなか認識できない。だからこそ、細かく観察し、適切な言葉を投げかけるリーダーが必要なのだ。


<中略>


 人の習慣は一方通行では変えられない、私はそう信じている。相手の習慣を肌で理解するためには、まず自分の習慣や常識を捨て去らなければならない。(201-202)

スキルの習得で目指すは無意識の段階。これに異論がある人はいないと思います。
意識してやっていたら疲れるだけですからね。


人間の行動は意識して行っているのは10%、残りの90%は無意識下での行動とも言われます。
「意識」して行っていることが「無意識」でもできるようななるにはどうすればいいか??
もうこれは、繰り返しやるしかないと思うんですよね、私も。


「無意識」=「習慣」だと考えると、だいたい21日で変われるようです。
21日って長いように思いますが、でも、人生の残り時間を30年と考えても、21日は残りの人生のたった0.2%
残りの99.8%の日をいい習慣で過ごせるんだったら、短いし、やってみる価値はあると思いませんか?





ここまで本書の文章を抜き出しながら私の思うことを書いてきました。
これ以外にも、紹介したい言葉は、まだまだたくさんあるのですが、感想抜きで一部紹介しますね。

迷えることは幸せなことだ


 そういうとき(ロジカルに判断できても、感情的に納得できないとき)には、正しい迷い方を阻害する4つの「邪魔者」が立ちはだかっている。それは「目先の欲」「リスクへの不安」「他者からの引力」「意味のないプライド」である。(p68)

正論は小声で言おう


 正論には刃が潜んでいる。正論は正しいからこそ、言われた相手は自らを恥ずかしく思うし、自分を守ろうとする。だから、拒絶される。(p89)

 正論が拒絶されるという話は、山田ズーニーさんの『あなたの話はなぜ「通じない」のか』という本にも出てきます。なぜ通じないのか??気になった方は、こちらも合わせて読んでみてください。この本もいい本ですよ〜〜


相談するなら、選択肢を持ってきて


 選択肢を作り、自分はどれがいいと思うかを考えることによって、その課題に対して真剣に向き合い、メリット・デメリットやリスクを十分に検討するようになる。その訓練を積ませることで、自律的に動ける人材が増えていくのである。(p153)

これも『「仕事を任される人」になる5つのルール』にありました。


部下や後輩を持つ人の共通の悩みなんですね...


自分のどこを見てほしい?


 私は「人を育てる」ということに、常におこがましさを感じている。それは、自分が微力であることを理解しているからだ。監督時代、私が練習で選手を見ていたのは、1日に2時間程度。残りの22時間は、それぞれの選手が家族や友人と違う空間で違う時間を過ごし、何かに心を動かされたり、影響を受けたりする。選手が急に成長したとしても、それが監督の指導によるものだと過信してはならない。選手の気持ちの動きやモチベーションの高低をすべて把握しているなどと思ってはならないのである。
 この前提に立つことこそ人材育成のスタートラインだと思う。1人のリーダーが24時間、全員を見ていることなどできない。だからこそ、本人や周辺から情報を集め、見ることのできない時間の空白を、1分1秒でも埋めようと努力する。これによって、部下の心の動きや成長の度合いを見逃す確率がぐんと減る。(p156)

相手に期待するな


 相手に期待しないことで、チームはうまく動く。その理由は2つだ。
 理由の1つは、イライラしなくなることだ。相手に期待すればするほど、裏切られたときにイライラするし、不満が募る。
 2つ目は、自律的に動くようになることだ。仕事をする相手のパフォーマンスが十分でなく、ミスが起きても「想定外」への対応が可能になる。(p171)

いかがですか??


ブログの中にも書きましたが、中竹さんは学生や部下に対して、かなり厳しいと思います。
でも、その厳しさの中には”愛情”がたっぷり入っているんだと思います。だから、みんなついていきたくなる。



私は中竹さんのよう成れるわけはありませんが、ここに書かれていた「レトリック」だけでなく、後輩をよく観察して、見ていない時のことも誰かに聞いて、情報を集めて、その時その時に応じた「適切な言葉」「レトリック」が言えるようになりたいですね。






私のつたない文章&抜き出した部分を読んだでは、なかなか伝わらないと思います。
部下や後輩など、誰かを指導・教育する立場にある人には、ぜひ、全文をとおして読んで欲しい本です。



【謝辞】
この本は日経BP社の村上広樹さまから贈っていただきました。ありがとうございました。


いただいてすぐに読んだのですが、興奮し過ぎてしまって感想を書けずにいましたが、1か月以上経って再読し、やっと落ち着いて(ないけど)書くことができました。
紹介できて私自身もほっとしています(;^_^A


素晴らしい本を、本当にありがとうございました。